【PUSH】を読みました。iTunes USAの映画レンタル(USA版では1度しか観られないけれど「レンタル」制があります)サービスで映画化された同作品のトレイラー(予告編)を見たことに始まります。
Precious:Based On the Novel 'Push'By Sapphire
トレイラー(予告編)がまたウマイ。日本人規格からは常軌を逸した肥満の女の子が「アタシにはイケメンのボーイフレンドがいるし、芸能人の仕事をしている。」と言わせたあとに、大層ひどい実母からの虐待のシーン。前者は実父から性的虐待を受け続ける主人公の「こうだったらいいのに」という空想なんですね。
小説じたいは主人公
プリシャス=Preciousが人生の底辺からようやく人生の師にめぐりあい仲間を得て希望を見いだそうとした矢先、実父からのHIV感染が判明。運命を受け容れ生の限り前へと歩もう(PUSH)というところ。著者は同性愛者であることをカミングアウトしており作品の主人公にはその性癖は全く関わりがありませんが、登場人物には立場として関わる者が2人ありうち1人は主人公に契機を与える教師という重要な役どころに配置されています。
私が読んだハードカバーの本では訳者のあとがきで
【映画化の誘いがあるも「お涙ちょうだいモノ」になるのを恐れて作者が頷かなかった】らしいのですが(@1997年)この作品が著者の処女作であったこともふまえ、2010年の売れるウチにやっとく?という辺りなのかしらん。構わんと思うが小説じたいはさほど面白くはない、というのが私の本音。2時間ちょっとで読めます。
ただ、描かれている虐待には息を呑む。物語の主人公
【Precious】は実父にレイプされ続け、父の実子2子を産む。でっぷりと太った実母はかばうどころか彼女が時分の男を寝取ったと暴力をふるい続けています。そのなかには過食の強要なども入っています。
彼女は虐待が続くなか自我がマヒし、学校教育も身になっていません。物語が始まる時点ではほぼ
文盲であり、彼女は文字を学びながら感情を表現できるようになっていきます。
私は
【Precious】が昔の友人の境遇に良く似ていることを思い出しました。
中1の最初の試験だったかと思うんですが、仲間うちグループで試験勉強をしようということになって、友人Tさんの家にお邪魔することに。Tさんは太めでさほど器量はよくありませんが、快活に笑う人で良く面白可笑しいことをやってみせては他人も笑わせているような子でした。
連れ立って行くと私たちは「ボシリョー」という場所に着いた。私は知らなかったのでボシリョーとは何か、と尋ねるとTさんは母親しかいない人たちが入るとこ、と簡単に説明してくれた。
今あらためて調べてみると、重い背景があるケースが多いようですね。
<参考>
母子寮の実際
Tさんの母君は部屋にいらした。こってりと太って身ぎれいにすることになど興味がないといった風体。歯はあちこちが欠け話す言葉もまるで言霊だけ抜け落ちたような感じ。
はい、もう察しがついている方もいらっしゃるかと思うんですが、友人Tさんは
母親から虐待を受けていたんですね。
私たちは挨拶をして勉強を始めた刹那、何が気に入らないのか、それすら全く分からないままに、ですよ?ただ罵声が聞こえたと思うと私たちの目の前で友人Tさんは母親に蹴られ、1メートル後ろのタンスにぶつかった。数回足蹴にされたかと思うと母親は部屋を出て行った。
こんなとき、止めてください、と母親をなだめすかしたりすべき!なんて言える人は
そのまま幸福な人生のゴールへ突っ走りなさいとしか私は言えないな。できませんよ、そんなこと。目の当たりにしてみなさい。
大人の圧倒的な暴力
ですよ。私たちは恐怖に凍りついて声すらあがらなかった。そしてもうひとつ、私たちが一瞬で理解できたことはこの暴力が日常茶飯事らしいということ。タンスにぶつかったTさんはそのまま畳にズリ落ちたあと、ちぇっまた始まったと言わんばかりの目で母をにらんでいたのを見たからです。ただ無言で、しかし最小限の抵抗を試み続けているのでしょう。だって彼女には行く所がない。Tさんは数分もたつとケロリといつものことだから、と言ってのけた。私もこの時は両親が豹変し愁嘆場を迎えたあとだったので、生きるには抗えないからそのオトナを辛抱するというTさんの無言の抵抗は直観的に共感できた。圧倒的な力の前に抵抗の翼を持ち続けたとしても、それだけでも大変なのにさらに自分で飛び立つという膨大なエネルギーが必要になると思うんです。少なくとも庇護下にあるべき年齢でこれをするなら、人生の喜びを薪に焚いていくことになると思う。
Tさんは映画の主人公
【Precious】に容姿も似ているが、虐待はむろん、ほぼ文盲だったりしたこともソックリで、恐らくかなり幼い頃から感情をシャットダウンしていたのでしょう。社会的なことにも大変うとく、電車の料金すら知らなかった。縁から私もたまに勉強を見たりしたのですが、くだんの母親が彼女と弟を置いて蒸発。施設へ引き取られていきました。
物語【Push】にはこうしたいわれもなく傷つけられたり、またそれにマイノリティである立場が加わったり(移民とか同性愛者だとか)という人たちがたくさん出てきます。実父の性的虐待、などまるで恐ろし過ぎて私には実感すら沸かないのですが、性的虐待、暴力といった密室での問題はアメリカほどではなくとも(ないと信じたい)ここ日本でも少なくはないだろうと想像します。私にように身近に見つけたことがあるという方もいるでしょう。
友人Tさんの母親が消えたとき、勉強を共にした私たちは子供なりに懸命に探した。でも結果、子供でしかありませんでした。今私はあの時どれほど望んだかというオトナになったのですが、オトナになってもやはりあの時みたオトナ達を赦してやれないわだかまりがあるのは、共感できないせいなんだろう。友人Tさんはどうしているだろうか。
物語【Push】は下記のマンガに似ています。
not simple:
オノナツメ
読むならマンガのほうがオススメ。どちらもそんな陽気な気分にはなれません。